2016.05.13 Friday

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2012.12.23 Sunday

生クリーム騒動〜インドのケーキと食の安全

想像していたこととは言え、インド人は、どうやらインド料理ばかりを食べているらしい。海外経験豊富な同僚や友人に聞いても、先進的な家庭のヤミニに聞いても、インド料理以外のもの(たとえばピザ、中華料理など)を食べるのはせいぜい1〜2か月に1度くらいとか。みんなインド料理が大好きでたまらないようで、そんな姿は何とも好ましい。

そうは言うものの、やはり日本と同様、「欧米モノ」には”かっこいい”イメージがあるようで、ピザハットやケンタッキーは高級レストランに匹敵する価格帯なのに賑わっている。更に、甘いもの好きのインド人だけあって、ケーキとアイスクリームは既に「西洋風のもの」が広く出回っている。

残念ながら、インドのケーキのほとんどは全然おいしくない。申し訳ないけれど、街中にある薄汚いケーキ屋などは問題外で(とても買う気がしない)、かなり清潔でスタイリッシュな店(もちろんインド基準ですが)のケーキでさえ、デコレーションがドキッとするほど微妙だったり、味も「うーん、いま一歩…」としか言えないものがほとんど。こう考えると、日本のケーキ屋さんは、街の無名のケーキ屋さんでさえ、何と繊細でレベルの高いケーキを作っていることだろう。どこのケーキ屋さんだって、インドに来れば瞬く間にトップ店だ。

インドのケーキが美味しくない理由は、一昔前の日本と同様「まだそこまで至っていない」ということなのだろうけれど、買う側としては、味はともかく、材料の得体が知れないことがいちばん不気味でおそろしい。カラフルな着色料は言うに及ばず、植物性生クリーム、ショートニング、そして、アルミニウム入りのベーキングパウダー。

特にインドでは、安価な植物性生クリームがよく使われると聞く。日本でも一昔前にはよく使われていた植物性生クリーム。生クリームとは名ばかりで、安価な食用油(液体)に水素を注入して無理やりクリーム状にした代物で、身体に有害なトランス脂肪酸を多量に含み、デンマークやスイス、そしてニューヨークやカリフォルニアでは既に禁止されていると聞く(日本は表示義務のみ)。トランス脂肪酸を含む水素注入油は、マーガリンやショートニング、そしてファーストフードの揚げ油にも広く使われているそうだけれど、最近はファーストフード店でさえ、トランス脂肪酸の半減を打ち出しつつあるとか(半減と言わず全減してほしい―ファーストフード店、自分は行かないけれど)。しかし、やはりインドではそこまで意識が進んでいないようで、そもそも植物性生クリームなんて不味くて食べられた代物ではないはずなのに、熱帯気候でも形が崩れにくいとか、動物性生クリームよりも日持ちがするとか、いろいろなメリットから広く使われているらしい。

…とここまで書いて、何もこれはインドに限ったことではなかった、と思い出した。日本だって、ファーストフード、コンビニ、冷凍食品を筆頭に、安い商品には依然として水素注入油が堂々と使われ続けている。しかし、日本には食の安全に意識的な店舗層がちゃんと存在するので、良質なものを選んで消費している分には、それほどひどいことにはならないという一定の安心感がある。インドの怖さは、食の安全に対する全般的な意識の低さ及び混沌ゆえに、「どうすれば良質のものを選べるのかがよく分からない」ということである。

たとえば、自然食品店でさえ、ノン・アルミニウムのベーキングパウダーは手に入らない(結局日本の家族に送ってもらった)。オーガニック素材でケーキを焼いている知人に「アルミニウムなしのベーキングパウダーは?」と尋ねても、「さあ、聞いたことがないわ…」と言うし、そもそも彼女自身がアルミニウムのケーキ型やアルミ鍋を愛用しているのだから、やはりそのあたりの意識はまだまだなのかな、という印象である。屋台や安い食堂などは言うに及ばず、かなりの高級店でさえ、たとえばどんな揚げ油を使っているのか知れたものではない、という臭いがプンプンする。

話をケーキに戻す。これまでいくつか食べた高級店のケーキはことごとく不発で、しかし、それでもケーキというものには一定の魅力があるので、自分は時々買い求めては呑気にインドのケーキ評論を繰り広げていた。思い返せば、妻は初回から「何かクリームが変な味がする。きっと、植物性生クリームだ」とぼやいていたにも関わらず、まさか高級店で水素注入油を食べる羽目になろうとは夢にも思わない自分は、頭の中で「植物性生クリーム=水素油」の基本公式が呼び出されず、5回目くらいでやっと気づいたのだった―自分はいま、水素油を食べているのだ!!!と。

別に5回くらい食べたからと言って、どうなるわけでもないことは分かっているけれど、「気づかずに食べていた」というのはちょっとした心理的ダメージだった。慌てて「インド、生クリーム、水素」などとインターネット検索するが、なかなか決定的な情報は得られない。南インドでは独自の「バタークリーム」なるものもよく使われるらしく、これも日本人の方々のブログ上では結構評判が悪いので、「自分たちが食べたものも、植物性生クリームではなくてバタークリームだったのでは?」という可能性も浮上するが、「インド国内におけるクリームの一般的な傾向」などのまとまった情報はついぞ見つからない。ならば、お店に直接聞いてみよう、ということで、Tuscanaという超高級な(もちろんインド基準ですが)イタリアン兼デリのケーキ部門でシェフに直撃アタックしてみた―「生クリームは植物性ですか?」

しかし、「Is this fresh cream…」と言い始めた瞬間、「植物性生クリーム」という言葉の英語表現を自分が知らないことに気づいた。とっさに「vegetable」と言いかけて、「ベジタブル・クリームではまるで野菜のポタージュではないか!」と思い、「vegetarian cream?」と言いなおす。するとシェフは満面の笑みで「Yes sir, it’s vegetarian cream」と即答し、横で妻は「ほら、やっぱり!」と目配せし、自分は「まさかこんな高級店までもが!」とショックで思考停止する。水素油とわかったからには、どんなに見かけが魅力的であっても(ここTuscanaのケーキは、オーストラリア人のお店だけあって、インドとは思えない洗練された風貌)買うわけにはいかない。その日は結局とぼとぼと帰宅した。

その後の数日間、頭の中では生クリームをめぐるもやもやが消えず、何度もインターネット検索をする。そして、「植物性生クリーム」はアメリカ英語ではwhipped topping、「動物性生クリーム」はdairy creamと言えば通じやすいことを知る。ただし、whipped toppingは「泡立てたトッピング」という意味なので、アメリカとは文化も意識も異なるインドでは、単に「泡立てたクリーム」と誤解されかねない。「ではnon-dairy creamと言えば確実に通じるに違いない!」と思い至る。

同時に、先日のシェフに対する自分の質問は、まったく不適切な表現であったことに思い至った。インドでは、ベジタリアンとは一般的に「ラクト・ベジタリアン(乳製品以外の動物性食品を食べない菜食主義)」を意味する。「ピュア・ベジタリアン」「ビーガン」など、アメリカだったら「完全菜食主義」を意味しそうな単語でさえ、インドではほとんど「ラクト・ベジタリアン」の同義語として使われている。だとすれば、自分が口にした「vegetarian cream」という言葉は、インド人の概念からすれば、動物性の牛乳のクリームも含んでしまうのではないか?しかもベジタリアンの多いインドでは、ベジタリアンという言葉が非常にプラスの響きを持つ。シェフはもしかして、胸を張って「ベジタリアンの方々でも召し上がれるクリームです!」と答えたのかもしれない。

仕方ない、もう一度質問するしかない、と観念し、再度来店。今回はシェフはおらず、店員に聞く―「Is this fresh cream dairy or non-dairy?」。果たして、店員の返答は「Dairy cream, sir」。まるでサスペンスのような展開に、腋の下に冷たい汗が流れる。どこでもかしこでも不正確かつ無責任な情報をつかまされることの多いこの国のこと(悪気はないのだろうけれど)、返答が正確である可能性は30パーセントとみたが、もうこうなったら買って自分の舌で確かめてみるしかない!と覚悟を決める。

選んだのは、もちろん、白いホイップクリームが溢れるほど挟まったエクレア。帰宅してさっそく一さじ口に運んで安堵に包まれる―「これは動物性生クリームだ…」。妻にも食べてもらうと、「変なエッセンスの香りがするけど、クリーム自体は平気そう」。

やっとのことで行き着いた「動物性生クリーム」。よかった、本当によかった、とひとり悦びに浸る(もはや妻には相手にしてもらえない)。とりあえずクリームが大丈夫そうでよかった。ベーキングパウダーはアルミニウム入りかもしれないし、ショートニングも入っているかもしれないし、変な香料や色素やその他の添加物は入っているかもしれないけれど、少なくともクリームだけは大丈夫そうだった…。

と同時に、情報がないところから食の安全をたしかめていくことの困難さを実感する。お店の人に聞いても確かな情報が得られない。使っている材料を教えてもらったとしても、それが安心素材なのかどうかが分からない。ひとつのお店だけでも「怪しいリスト」はいくつにも及び、こんなことをすべての店でチェックすることは現実的にはきびしい。結局、それなりに気を付けて、あとは諦めるしかないのだと思う。本当は、諦めてはいけないことなのに!大気汚染だって、水質汚染だって、同じことだろう。どうしようもないから、みんな諦める。これは発展途上国では顕著な現象なのだろうけれど、先進国でもいろいろな次元で起こっていることだと思う。

生クリーム騒動が沈静化してきた今日、家族でオーロヴィルに旅行に行く。世界に知られる環境実験都市。エネルギーの持続的な自給、さらに貨幣使用の撤廃までをも目指す未来型コミュニティで、食べ物はもちろんオーガニックが基本。インドという枠を完全にはみ出た彼の地で、4日間、安心な食べ物をたのしみ、きれいな自然の中でリラックスして過ごし、「意識的な視点」から見たインドをもっと知りたいと思っている。 

2016.05.13 Friday

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